概要・特色
近年、少子少産化という社会情勢の変化を背景に高齢出産など妊婦自身が潜在的に有するリスクが増加しています。しかし、その一方で出産に対する安全神話が社会に広く普及し、妊娠・出産に対する快適性を求める妊婦のニーズの多様化という現象が生じています。
このような現状を鑑み、当科では大学病院として各科専門医師らと連携して種々の合併症を有するハイリスク妊婦の妊娠・分娩 管理を行うため、高度周産期医療チームとして重症疾患を有する 母体に対して集中治療部・救急部・麻酔科・外科などの他科の専門医師と協力して高度な集学的治療を提供し、県下の危機的状況の妊産婦の救命に務めています。これに加えて2006年1月からは各医療機関の協力のもと滋賀医科大学医学部附属病院産科オープンシステム(セミオープンシステム)を、2010年3月からは院内助産を開設し、安全性と快適性を両立するような母児管理を推進しております。
また、2013年4月より総合周産期母子医療センターの認定を受けており、2018年4月にはNICU(新生児集中治療室)を3床増床し、現在MFICU(母児胎児集中治療室)6床、NICU12床、
GCU(回復治療室)12 床で24時間体制で母体搬送の受け入れはもちろん、出生後から処置が必要な新生児に対しても、胎児診断を行い、小児科、小児外科および形成外科と連携をとりながら適切な母体・胎児管理から出産後の新生児管理・治療につなげています。
また、2012年より胎児の状態が急速に悪化し、一刻も早く児 を娩出する必要がある場合に、帝王切開の決定から児娩出までを約15分とする超緊急帝王切開術(グレードA)という院内救急システムを確立し胎児救命に尽力しています。
診療内容
◦妊婦健診
◦妊娠合併症、合併症妊娠の管理
◦多胎妊娠の管理
◦胎児診断と管理、胎児治療
◦出生前診断(超音波スクリーニング、NT計測、NIPT、羊水検査)
◦遺伝カウンセリング
◦胎児骨盤位外回転術
◦経静脈的患者自己調節鎮痛法を用いた和痛分娩
◦NT計測を含む妊娠初期スクリーニングは妊娠11から13週頃にご紹介ください。
◦下記条件を満たした場合、既往帝王切開後妊娠の経腟分娩(TOLAC)も行っております。
-当院におけるTOLAC許可条件-
▶︎母体年齢≦40才、BMI<35、
▶︎既往帝王切開が1回かつ1年以上前で2層縫合の子宮下部横切開子宮体部筋層まで達する手術既往がない。
▶︎子宮破裂の既往がない。
▶︎胎位異常や胎児発育不全といった経腟分娩の障害となる合併症のない単胎
特に紹介を受けたい疾患、症例
妊娠合併症:高齢妊娠、多胎妊娠、重症妊娠悪阻、切迫流産、切迫早産、 妊娠高血圧症候群、前置胎盤、羊水過多、羊水過少、胎盤腫瘍、胎児発育不全、胎児疾患(胎児構造異常、胎児胸水、胎児貧血等)
合併症妊娠:循環器系疾患(心疾患、不整脈、高血圧等)、血液疾患(血小板減少、再生不良性貧血、白血病等)、 腎尿路疾患(腎不全、ネフローゼ症候群、片腎等)、内分泌代謝疾患(糖尿病、甲状腺機能異常等)、自己免疫性疾患(全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体 症候群、シェーグレン症候群、リウマチ等)、呼吸器疾患(気管支喘息等)、精神疾患(統合失調症、躁うつ病、パニック障害等)、神経疾患(てんかん、脳動静脈奇形、脳腫瘍、脳梗塞等)
主な検査・医療設備など
胎児超音波検査、NIPT、羊水検査、NT検査等 MFICU6床、NICU12床、GCU12床
LDR(Labor-Delivery-Recovery)1室
地域に対する取り組み、最近の話題など
◦2016年10月より母体血中cell-free DNAを用いた無侵襲的出 生前遺伝学的検査(NIPT検査)の紹介受付を開始し、遺伝カウンセリングを重視した出生前診断に取り組んできました。検査を行う年齢基準がありましたが、2022年4月からは年齢基準を設けず、十分なカウンセリングを行った上でご希望に応じた対応を行っております。
受検についての詳細は当院HPをご参照ください。
◦2007年2月より胎児超音波外来を開設し、胎児異常のスクリーニングや治療相談を行っています。胎児異常を疑う場合はご紹介ください。
◦胎児治療にも積極的に取り組み、無心体双胎妊娠に対する Radiofrequency ablation(経皮的ラジオ波焼灼療法)、胎児 胸水や先天性嚢胞性肺疾患に対する胎児胸腔羊水腔シャント術、胎児下部尿路閉鎖に対する膀胱羊水腔シャント術、胎児貧血に対する胎児輸血、羊水過少に対する羊水注入を施行しております。
◦2021年11月より希望される妊婦さんに経静脈的患者自己調節鎮痛法を用いた和痛分娩を開始しました。
◦2017年より骨盤位に対する外回転術を開始しました。骨盤位は一般的に帝王切開分娩となると考えられておりますが、当院では、条件を満たせば、外回転術によって頭位に矯正し経腟分娩の機会を得ることを提供しています。年間10〜15例程度の症例をご紹介いただいており、2021年2月時点では80%前後の成功率を維持しております。妊娠34−35週で骨盤位であった場合にご紹介いただき、妊娠36週で当院にて処置を行います。(原則として一泊入院で行っております)
無心体双胎妊娠に対する経皮的ラジオ波焼灼療法とは?
麻酔をした妊婦さんに細い針を刺し、高周波電流を流すことで、無心体(心臓 や頭部が形成されていない存在)への血流を止める手術です。
健常な胎児の心臓負荷を改善でき、救命の可能性を高めることができます。
胎児胸腔羊水腔シャント術とは?
お腹の中の赤ちゃんの胸腔と羊水腔にチューブを留置することで、胸に溜まった水が持続的に羊水腔の方に流れていくため、水で圧排されていた肺が膨らみ、心臓の機能が改善します。
診療実績(2021年度)
手術・検査・治療法等 | 件数・数値等 |
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総分娩数 | 457 |
総出生数 | 494 |
多胎妊娠 | 36 |
羊水検査 | 24 |
外回転術 | 14 |
胎児超音波外来 | 82 |
胎児治療(ラジオ波熱灼術、羊水注入) | 4 |
子宮頸管縫縮術 | 23 |
帝王切開件数(帝王切開率) | 229(46%) |
超緊急帝王切開術(GradeA) | 5 |
救急搬送受け入れ件数(産後含) | 116 |