子宮筋腫や卵巣嚢腫などの良性腫瘍から子宮がんや卵巣がんなどの悪性腫瘍まで網羅しています。性器脱や尿失禁もこちらです。

疾患

1. 良性腫瘍について

・子宮筋腫

子宮筋腫は子宮に発生する良性腫瘍ですが、発生部位、大きさ、数はさまざまで、自覚症状も個人差があります。子宮筋腫は約3割の女性に認められ、全ての方に治療を要するわけではありません。過多月経やそれによる高度貧血、巨大筋腫や痛みを伴う場合などがその対象となります。

・卵巣嚢腫

卵巣に発生する腫瘍の多くは内容に液体成分を有する嚢胞を形成し、卵巣嚢腫と呼ばれます。卵巣嚢腫が捻れた場合には激しい痛みを伴いますが、それ以外ではほとんど症状が無く、婦人科検診や他科受診時に偶然に見つかることも稀ではありません。5 cmを越えるものや次第に大きくなるものでは卵巣癌との鑑別が重要です。

卵巣嚢腫は薬で治療することができないため手術療法が選択されますが、卵巣ごと摘出する方法と卵巣嚢腫だけを摘出して正常組織をなるべく温存する方法の2通りの術式があります。

・子宮内膜症

子宮内膜症は子宮内腔に存在する子宮内膜と類似した組織が異所性に存在する病気で、近年増加しているといわれます。エストロゲンという女性ホルモンにより増悪する傾向があり、月経痛や不妊症の原因となります。子宮腺筋症は子宮の筋層に子宮内膜症がある状態で、増大すると子宮筋腫と同様の症状が出現することがあります。卵巣チョコレート嚢胞は卵巣における子宮内膜症病変であり、最近は卵巣癌発生の原因の一つと考えられ、40歳以上で腫瘍径6cm以上では手術が考慮されます。

子宮内膜症は上述の通り女性ホルモンにより増悪するため、閉経する50歳前後まで何らかの治療が必要になることが多いです。手術療法や薬物療法を組み合わせて治療を行います。月経痛、不妊症、前癌病変という3つの異なる病態を兼ね備える子宮内膜症に対して、当科では、ひとりひとりの状況に即した治療を提案しております。


2. 悪性腫瘍について

・子宮頸癌

子宮頸癌はそのほとんどが性交渉によって感染するヒトパピローマウイルス(HPV)、その中でもHPV16型、18型など高リスク群といわれるグループが癌を発症します。実際に感染して子宮頸癌となる方はごく一部ですが、初交年齢が若年化する現在では20代での子宮頸癌発症も増えており、自治体の子宮がん検診も20歳から(ただし2年ごと)となりました。子宮頸癌やその前癌病変は子宮癌検診にて高率に発見できます。当科でも細胞診やコルポスコピーを併用した精密検査を行います。

初期の子宮頸癌は子宮頸部高度異形成といい、子宮腟部円錐切除術という子宮温存手術で治癒することが多いため、治療後に妊娠、出産も可能です。

浸潤癌の場合は手術療法や放射線療法を行います。子宮頸癌の手術は広汎子宮全摘術といいますが、術後の排尿障害や骨盤内リンパ節郭清によるリンパ浮腫といった後遺症があります。そのため病巣が小さい場合は腹腔鏡下手術または開腹手術で神経温存手術を行い、排尿障害を抑える術式を選択します。また、術後の方は全例に自己によるリンパマッサージを指導し、リンパ浮腫発症の早期発見および予防に努めています。
手術後にその再発リスクに応じて放射線治療や化学療法を追加することがあります。

・子宮体癌

子宮体癌は同じ子宮に発生する癌でありながら、先の子宮頸癌とはまったく異なる病気です。一般に子宮がん検診は頸癌検診だけを指すことが多く、残念ながらそれだけで子宮体癌を診断することは困難です。また、子宮体癌は月経異常、未産、肥満などが危険因子とされ、生活の欧米化や晩婚化、少子化に伴い急激に増加しています。40代後半以降に多いとされますが、30代でもみられるようになりました。子宮体癌を疑う症状としては、月経以外の性器出血や閉経後の性器出血などがあります。当科ではそのように子宮体癌を疑う症状を認める方には、子宮内膜細胞診や組織診などを行い診断をします。
子宮体癌の治療は手術療法が基本となります。初期の子宮体癌では後述します内視鏡下手術が適応となります。一方で、やや進行した子宮体癌や特殊なタイプの子宮体癌に対してはリンパ節転移の可能性を考慮する必要があります。子宮体癌は子宮のある骨盤内だけでなく、へそ上からみぞおちまでの間にあるリンパ節に最初に転移することもありますので、骨盤内とその部分を含めたリンパ節郭清(骨盤~傍大動脈リンパ節郭清)を行っています。傷口が大きく、手術時間もやや長くなるため腸閉塞などの合併症が問題とされていますが、当科ではほとんど発症していません。また子宮頸癌同様、術後にリンパマッサージの指導を行います。
手術後には再発リスクに応じて化学療法を行うことがあります。
妊娠したいという希望があり、病巣がごく初期であるなど条件が合致する場合は、ホルモン療法と子宮鏡検査を併用した子宮温存療法を選択することも可能です。

・卵巣癌

卵巣癌は早期発見が難しい病気であることが知られています。初期には自覚症状に乏しく、病気が進行して初めて診断されることが多いためです。残念ながら卵巣癌検診の有効性は現在のところ立証されておりません。お腹がはってくる、体重減少があるなどの症状で内科を受診して診断されることもあります。結果、卵巣癌の約半数は癌細胞が腹腔内に播種した癌性腹膜炎の状態で発見されます。
卵巣癌治療は基本的に手術療法と化学療法が必要となります。手術で完全に病巣を摘出することが最も生命予後を改善することが知られています。手術で病巣を摘出してから化学療法を行いますが、最初に手術で完全切除が困難と判断した場合には、化学療法を先行してから手術を行うこともあります。病巣を完全に摘出するために、子宮体癌と同様のリンパ節郭清のほか、消化器外科による腸管合併切除なども行います。
卵巣癌と診断されても妊娠の可能性を残す治療法もあります。化学療法の効果が非常に高いものや、初期のものに対しては子宮やもう片方の卵巣を温存した治療法も選択肢となります。

・その他の婦人科がんについて

上記以外にも、子宮肉腫、卵管癌や腹膜癌、腟癌、外陰癌、絨毛性疾患などに積極的に治療を行っております。


3. 尿失禁・性器脱について

咳やくしゃみで尿がもれる(腹圧性尿失禁)、外陰部にものがはさまっているようで気持ち悪い(性器脱)といった症状が特徴です。受診された患者さんの多くが、「歳のせいだと思っていた」「恥ずかしくて誰にも相談できず我慢していた」とおっしゃいます。これらの疾患は治療によって症状を改善し、生活の質を高めることが可能です。
治療法は大きく分けて手術療法と保存的加療の2種類があります。保存的治療とは、骨盤底筋体操という体操を行ったり、腟内ペッサリーリングを入れたりなどして手術を行わず経過をみる方法です。


4. 更年期について

更年期は、閉経前後の期間を指し、この期間に卵巣機能の低下に伴って女性ホルモンが低下することで様々な症状が起こります。顔のほてり(ホットフラッシュ)やのぼせ、異常発汗、動悸、めまい、頭重感、肩凝り、不眠などです。更年期の症状は、高脂血症や血管障害などの加齢に伴う疾患や生活習慣病、社会環境の変化による心理要因による症状も関連するため、症状や重症度も個々人で異なります。患者さんのお話を伺い、ホルモン補充療法や漢方療法、その他の薬物治療を行っています。

治療

1. 開腹手術

お腹を比較的大きく切って行う手術です。大きな良性腫瘍や悪性腫瘍などが開腹手術の対象となります。傷口が比較的大きくなりますが、手術の翌日から立ち、歩いていただくことを目標にしており、痛みを和らげることに最大限配慮しています。

2. 内視鏡下手術

腹腔鏡手術やロボット支援下腹腔鏡手術などがこれに含まれます。開腹手術のようにお腹を大きく切るのではなく、1cm前後の小さな傷口を数か所あけ、そこから腹腔鏡と言われるカメラや器具を挿入して行う手術です。ロボット支援下手術でもこれら器具の操作は術者が行いますが、腹腔鏡手術と比較して多彩で精密な動きができます。良性腫瘍や初期の悪性腫瘍などが対象となります。開腹手術に比べて傷口も小さく、体の負担が比較的少ないのが特徴です。また、2022年からは経腟的内視鏡手術にも取り組んでいます。腟から行う内視鏡手術で、お腹に傷をつけることもありません。

3. 腟式手術

開腹手術や内視鏡下手術とは異なり、お腹を切らずに腟の方から行う手術です。子宮頸部異形成や比較的小さな良性腫瘍、性器脱などが対象となります。傷口がみえず、体の負担も比較的少ないのが特徴です。

4. 化学療法

悪性腫瘍に対する治療は大きく分けて、手術療法、化学療法、放射線療法の3本柱となります。化学療法は手術療法および放射線療法とは異なり全身に効果があります。手術療法で対応できない病気に対する治療や、手術後の再発率を下げるために使用したりします。

5. 放射線療法

手術、化学療法と並んで悪性腫瘍に対する治療法の一つです。放射線治療科が担当していただいております。手術と同様に局所に対する治療ですが、病気がある部分に放射線をあてて治療します。レントゲン撮影と同様に、放射線があたっても痛みや熱を感じることはありません。

診療実績(手術件数)

2020年 2021年 2022年
開腹手術 108 85 97
腹腔鏡手術 188 168 145
ロボット支援下手術 34 56 61
腟式手術 111 93 95