教室員の風景

2021年1月

「産婦人科医、父になる」

 こんにちは、村頭温と申します。厳しい寒さが続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私はと言いますと、目下大学院の学位論文作成に勤しみつつ、ひとたび家に帰ればじゃじゃ馬と化した1歳の娘の育児に奮闘しております。


 妻の妊娠が判明した際、身内は客観的に診られないだろうと思い、当時勤務していた長浜赤十字病院の部長に妊婦健診をお願いしたところ、「産婦人科医たるもの、自分の子を取り上げて一人前だ!」と怒られてしまい、自分の外来で妊婦健診をすることになりました。いざ始めてみると、胎児心拍確認や胎児スクリーニング(臓器に異常がないか調べる超音波検査)の緊張感、予定日超過したときの焦燥感、オキシトシンでの分娩誘発不成功時の悲壮感など、今までの診療では経験できなかった妊婦さんの家族としての気持ちを体験できました。そして、親の心子知らずとはよく言ったものですが、誘発分娩不成功だった日の深夜に自然陣痛が来て、お産はグングン進み、結果的には5時間ほどでのスピード出産でした。我が子のお産を通して、子供には子供のペースがあるんだよ、と新生児の娘に教えられたように感じました。


 先日1歳となった娘は、大人の早歩きほどの猛スピードのハイハイと、祖母から貰った三輪車を駆使してあらゆる場所に瞬時に移動し、いたずらの限りを尽くします。これも発達過程における大切なプロセスなのだろうと考え、よほど危ないこと以外は注意せず傍観していますが、まあ大変です。ただ、娘をよく観察していると、何かを出来るようになるまで何度も同じ動作を繰り返していることが分かり、スポーツや手術手技などの習得に通じるものがあるなと妙に納得しました。


 子育ては思った以上に大変ですが、得られるもの大きいと日々感じています。そして振り返ると、妊娠経過を主治医として間近で見られたことは幸せでしたし、産婦人科を選んで良かったと思います。産婦人科は手術や分娩があって忙しいと世間ではよく言われますが、私はむしろ日々の診療で自分の存在意義が感じられて充実しています。そして、勤務後は家族との時間も取れますし、当直の翌日は丸一日休みなので、意外と労働環境は悪くないです。また、当医局は医局員の挑戦を応援してくれる気風があり、私自身も今春より、がん研有明病院で婦人科腫瘍の研鑽を積む機会を与えて頂きました。これからも、家族との時間を大切にしつつ、恵まれた環境で修練を積めることに感謝し、いつか恩返しできればと思っております。